ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「寝てないだけか? それとも寝たことがないのか?」
陽斗は真摯な顔で俺に聞いてくる。
「寝れるわけねえだろ、こんな時に」
「……お前は"寝たことがある"んだな?」
おかしなことを言い始めた。
「寝るだろ、普通は」
腕を組んで訝った俺に、陽斗は遠い目を宵闇の空に向けて、薄く笑った。
「普通、はな。もしかしてお前までも、と思っただけだ。
俺は――
人間の三大本能というものを奪われているから」
「三大本能って……」
睡眠欲、食欲、性欲だったっけか?
「名残はあるらしいが、
実行する手段が俺には判らねえ」
俺は押し黙った。
"奪われている"
その意味が判ったからこそ。
「その時点で、人間ではないのかも知れねえけどよ、俺は。ぎゃはははは」
哀しい、笑い方だと思った。
この男は、こんな笑い方で、自分を守ってきたのだろうか。