ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
月が雲に隠されたような、
翳りのある顔でそう言われて。
俺は何も口にすることが出来なくて。
何で陽斗に会いに来たのかその理由を忘れ、俺は…背を向け口を閉ざした陽斗を、じっと見つめることしか出来なかった。
――羨ましいよ。
俺は馬鹿で。
俺は弱くて。
俺は逃げてばかりで。
誇りなのは櫂に選ばれたことくらいで。
俺なんか――
安っぽい橙色で。
粗野で。
がさつで。
顔も悪いし。
救いようのねえヘタレで。
惚れた女に縁も切られたこともある、情けねえ奴で。
学習能力もないのただの馬鹿犬。
その俺を羨ましいなんて、そう思う奴が居るとは思わなかったから。
俺は複雑な思いを胸に抱き、ベランダから出た。
――羨ましいよ。
何だか少し――
切なくなってしまった…
そんな…時間。