ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「元老院から紫堂本家へ、御子神祭の主事変更の正式通達はもう来たのか?」
すると櫂は頭を横に振った。
「まだ内定段階のままだ。はっきりとした命令がない以上、祭開催に奔走する人々の混乱を考えれば、形だけでも紫堂が開催を仕切ることになるかもしれん。
紫堂が主事だからと、今回の協賛者は多い。それだけに、派手なイベントやアトラクションも用意され、その経済効果に政府も好意的だった。
それが御階堂に切り替わった時、反発を抑えるだけの財力や力……或いはその時間が、あの男にはないだろう。
だとすれば、決して表に出ない煩わしい下拵(こしら)えだけは紫堂に放り投げ、メインディッシュをかっさらう……。
あの御階堂のことだ、紫堂の顔に泥を塗る形で、力の差違を発表すると思う。裏切られたと思った協賛者達も牙を剥くだろうし、あいつにとっては愉快極まりない」
「だとすれば……。
今まさにっていう時の、"直前"が濃厚か」
「多分な。一番の盛り上がり時……奉納祭あたりかと、俺は睨んでいるが」
「奉納祭は三時。それまでに"形"を集めておかないといけないね」
「それまでに、"こっち"も押さえつけないといけない」
「……大丈夫そう?」
僕が聞くと櫂は笑った。
『気高き獅子』と誰もが賞賛し畏怖する、あの不敵な笑みで。
超然とした顔は、見る者を惹き付ける。
「心配ない。朝飯前だ」
何1つ、憂うことなどないのだと。