ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「俺はさー」


そして頬から手を引き、顔を伏せて沈黙する。


「……俺はさー」


譫言みたいに同じ言葉繰り返し、そして顔を上げた。


金色の前髪が、ふわりと揺れる。


見据えるような金色の瞳。


だからあたしも目線を外さない。



「お前だけは信じてえ」



あたしは目を細める。


「やっぱ『紫堂』だって思うだけで、虫酸が走る。だけど、お前が信じろというのなら、信じたい気がする。


そんなんじゃ――

駄目だろうか」


それはみたこともない弱々しい顔で。


あたしはペンを走らせる。




"上出来"





親指を突き立てて笑うあたしに、陽斗は安心したような顔を向けると、久々にぎゃはははと笑った。


それでも控え目に声を落した笑い方は、深夜に寝ている皆を気遣ったからなのかな、と思えば…あたしがどうのではなく、陽斗自身、何か心境の変化でもあったのかもしれない。


初めて会った時のような、人を見下したあの態度では友達は絶対出来ないだろうけど、道化師ではない"陽斗"としての素の顔を見せてくれるのなら、きっと皆と上手くいくと思う。


そう…思うんだ。

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