ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
一気に缶をあけてしまった。
だけど――
「お、おい、芹霞ちゃん?」
くらくら揺れるのは何故?
ふわふわと、気分が桃色になるのは何故?
熱……また上がってきたのか?
何だかとっても気分がいい。
あたしの手から、空き缶が転がった。
気づけば斜めに傾いていたあたしは、陽斗に支えられていて。
その温もりに、今更ながら陽斗の無事を確認して、思わずにんまりと笑ってしまう。
「……ど、どうした?」
若干、怯んだようなような表情を見せた陽斗が、何だか無性に可愛く思えてきて、突発的にぎゅうをしたい心地になってきた。
だからあたしは陽斗の首に手を回し、思い切りぎゅうを敢行する。
「な、なな!?」
陽斗は思い切り動揺したらしく、ぎゅうをした恰好のままで、棚のフライパンを落とした。
がらんがらんと派手な音がする。
その音に誰かがやってきた。
「何か煩いと思ったら……おい、芹霞から離れろッ!!!」
この怒鳴り声は煌?
煌は陽斗の背後に回って羽交い締めをし、そしてあたしは、
「芹霞さん、大丈夫ですか?」
目の前にいる桜ちゃんに庇われる。
「芹霞さん……ん、その匂い」
くんくんとあたしの顔から匂いを嗅ぐ桜ちゃんが可愛く思えて、あたしは思わず桜ちゃんに抱きついた。
くりくりとした大きなおめめが可愛い、桜ちゃん。
小動物みたい。
「何で桜ッッ!?!」
煌の裏返った声。
桜ちゃんはお人形さんのように動かない。
そこもまた可愛く思ってしまって、あたしは桜ちゃんのつやつやほっぺに、ちゅうをした。
可愛い桜ちゃんへの親愛のちゅう。