ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「ぎゃああああッッ!!」
そんな声を出したのは多分煌で。
煌は陽斗ではなく、あたしを押さえる側に回ってきた。
桜ちゃんはあたしから離れると、頬に手を添えたまま、一歩また一歩と後退し、どさりと崩れ落ちてしまった。
「お前、気でも狂ったのかよ!!?」
泣きそうな煌の声。
ぎゅうの連続で上機嫌になっていたあたしは、今度は煌をぎゅうする為に振り返ったが、
「やめろやめろッッ!!! 何寝ぼけて……さ、酒臭え! 酒飲んだのか……って、お前もしかして、俺がポイントシールこつこつ集めて抽選でやっと当てた『漢(オトコ)のフルーツ缶』飲んだんじゃねえだろうな!?」
煌の声が、頭にぐわんぐわん響いて聞こえる。
「あれ焼酎の量が半端じゃねえんだぞ!? うわ、お前、俺が最後に飲もうとしていた『漢の桃缶』、ごろごろ桃を全部空けたのかよ!? ひっでえええッッッ!!!」
うーん、煩い。
「いいか、酔っ払いッッ!! 絡み上戸の酔っ払いにぎゅうされたって……嬉し……くねえから、せめて誰もいねえ処で……なんて絶対駄目……だから俺の処だけ……いやいや、俺は人様に見せつける趣味はねえッッ!!!」
何言ってるのか判らないけど、煌はきっとぎゅうを嫌がっているんだ。
そんなにあたしとのぎゅうが嫌なら、いいもん。
あたしは口を尖らせて身体を捻り、両手を開いて、
「わわわ、また俺に戻るか!?」
慌てた陽斗の声。
また何かが落っこちる音がする。
その音に吃驚してあたしは、かくんと膝を落してしまった。
あたしが座り込むと、全員が座り込む体勢になる。
「芹霞、目を覚ませってば!! お前がやったら洒落にならねえんだってッッ!!! それじゃなくても此処は櫂の家で……駄目だったら、駄目ッッ!! 芹霞、ぎゅうは押さえろッッツ!!」
煌が陽斗からあたしを引きはがす。
それにむっとしたあたしは、意地でも陽斗に抱きつこうとする。