ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「で、声どうだ?」
陽斗の問いに、反射的に発声してたみたが、うんともすんとも言わない。
空気の音すら出ていない気がする。
あたしは頭を横に振った。
その動きで、玲くんが目を覚ましたようだ。
見上げれば、とろん、とした鳶色の瞳が、あたしに近づいた。
「ん……、芹霞、おはよ」
甘えたような掠れた声。
斜めから覗き込んでくる端麗の顔。
金髪のように煌めく鳶色の髪が、さらりと揺れた。
玲くんの寝起きの顔は初めて見る。
子供みたいに無防備で可愛い。
可愛いけれど、流し目だ。
「消えてなくてよかった」
あまりに儚げな顔で破顔するから、きゅん、と胸がしめつけられた。
きっと玲くんにも心配かけたんだな。
そう思ってじっと玲くんを見ていたら、
「……ねえ、芹霞」
まだ僅かにとろんとした眼差しを少し細めた。
「この姿勢って…
ヤラシイって思わない?」
突然玲くんがおかしなことを言った。
あたしは口を動かす。
「『何が』? そうか……意味判らないか。
じゃあさ、僕が色々教えてあげるよ。
そしたら、きっと僕が言った意味、判るようになるから」
まるで寝言のように、口調はゆったりとしているけれど。
吐息混じりのその声は、色気に満ちていて。
同時に、まるで呼応しているかのように、鳶色の瞳はゆらゆらと妖しく光り、あたしに絡みついてくる。
「不安になることないよ? 最初は皆そうだから。……大丈夫、僕は優しくするからね。
芹霞が判るようになるまで…手取り足取り、僕がじっくり、ゆっくりと教えてあげる。ふふふふ」
そしてあたしの髪を触る。
撫でるというより……
長い指に髪を絡めるその動きは、やけに…艶めかしく。