ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「……寝て、どうするつもりだよ」
突然、不機嫌そうな煌の声が聞こえた。
苛立ったような、褐色の瞳。
その顔は真っ赤だ。
完熟トマトよりも赤いんじゃないだろうか。
「……玲、お前わざとだろ」
「ん……?」
「この確信犯ッッ!!
緋狭姉並に質(たち)悪すぎるッッッ!!」
「そう言いながらさ、芹霞の手を、指絡めて握り締めないでくれる? 嫉妬は醜いよ、そう思うよね、櫂?」
いつの間にやら、切れ長の瞳は開いている。
当初こそ玲くんに冷たい瞳を返していたが、やがてあたしに目を合わせると、
「おはよう、芹霞」
ふわりと笑い、あたしの手の甲にその唇を押しあてた。
――!!?!
あたしは驚いて飛び起きる。
無論、両手も慌てて離す。
「あ~あ、起きちゃった。あんなに可愛く僕にしがみついていたのにさ。どんなことをしても、僕から離れなかったのにね~」
意地悪そうな玲くんの声に、櫂の顔は僅かにひきつっている。
何だろう。
玲くん、朝から"S"だ。
地味に――
記憶のないあたしまで、苛められている気がする。
「……でもよ、"お母さん"だろ?」
煌が膨れっ面でぼそりと言った。