ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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陽斗はよく食べた。


食べた後の空になった皿をじっとみつめ、自分からもう一杯よそおい、更にまた食べた。


食べた後、何も言わずにまた空になった皿を見ている。



多分、味はしたのだろう。

多分、気に入ったんだろう。



あたしと陽斗は材料を切ったり麺を茹でる処を担当し、味付けなどの総仕上げは玲くんに任せたけれど、その玲くんの味付けが思った以上に気に入ったらしい。


「玲様は何をお作りになってもおいしいですわ」


にっこり笑う桜ちゃんも、部屋から出てきてくれて。


何をしでかしてしまったのかとびくびくして見つめたけれど、逆に怪訝な顔を向けられた。


いつも通りの桜ちゃんに、あたしは内心ほっとして。



「玲、なんで朝からナポリタン?」

「芹霞のリクエストでさ」


あたしは紙に文字を書いた。


"だって昔懐かし『ママの味』でしょ?"


陽斗にその味を食べて貰いたくて。


「ぶはっ!!!」


玲くん以外が、玲くんを見て突然笑い出した。

陽斗もぎゃはぎゃは笑っている。


玲くんは引き攣って…笑っている。


一体何がおかしいのか判らないあたしは、書いた紙をよく読んでみるけど、やっぱりよく判らない。


やがて後片付けが終わった時、あたしは玲くんに文字を書いた紙を見せた。


"あたしの携帯、ある?"


「あるけれど……使える?」


確かに声が出なければ無用の長物だ。

けれどあたしの目的は通話じゃない。


"紙に書くより、携帯で打つ方が早いから"


玲くんは頷いて、

あたしのメタルピンクの携帯を返してくれた。





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