ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
俺は芹霞を斜めに見た。
幾分緊張しているその顔に、少しでも安心させたくて微笑んで見せると、芹霞も少し弛んだ顔を見せた。
そして問う。
「なあ、芹霞。お前、見たんだろう?」
芹霞が首を傾げた。
「車の中で。……一体何を見た?」
すると芹霞は下唇を噛んで、何かを堪えるように身体を強ばらせた。
「芹霞、大丈夫だ。俺が……俺達が居る」
そう優しく声をかけると、芹霞はやがてこっくりと頷き、携帯を弄り始めた。
そしてその画面を俺に見せる。
メールの編集画面だったけれど。
そこにあった文字は。
"頭の中で話しかけられて、玲くんの後ろで女の子が笑っていた"
「……っ!!」
玲の顔が深い翳りに覆われる。
「女の子って、どんな奴だよ?」
煌の声。
"年齢不詳。色っぽくてあどけない"
"目元にホクロが3つある、長い黒髪の子"
桜が、ポケットから1枚の写真を取り出した。
「聞き込み用に持ち歩いていたものですが……」
その写真に写っているのは制服姿の少女。
それを覗き込んだ芹霞は、指をさして頷いている。
「篠山亜利栖……か」
俺は静かに呟いた。