ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「はあ!?そいつの瘴気に芹霞の声が奪われ、俺がぶっ倒れたっていうのかよ!?第一、何で玲が気づかねえんだよ!?」
褐色の瞳は、金色の瞳を見つめた。
「おい、陽斗。お前だって緋影なんだろ!?お前も出来るのかよ、そんな芸当」
「その様子じゃ、ある程度は予測はついてるんだな、紫堂櫂」
煌の言葉は無視して、陽斗は睨み付けるような眼差しで俺を見た。
煌は口を尖らせ、膨れっ面をしている。
「あくまで、想像の範疇内だ」
「はん。想像だとは思ってねえだろ。本当いけ好かねえ男だ」
鼻で笑うような嘲りを見せて、俺から顔を背ける。
どうも俺は、この男に嫌われているらしい。
やがて陽斗は、けだるそうに壁に頭を寄せ、だがその金の瞳だけは鋭くさせたまま、天井を見上げながら言った。
「制裁者(アリス)は、俺の身体を……身体の細胞を元に作られた、純粋なる殺戮者。不死に近しい肉体と、人間を超越した戦闘能力を持たせる、元老院の私兵。厳密に言えば、俺は制裁者(アリス)の原型であって、制裁者(アリス)じゃねえ」
そして溜息をつくとまた続けた。
「制裁者(アリス)がその"任務"を果たそうとする時、真紅色の瞳になる。真紅の瞳は、いわば元老院の傀儡……トランス状態の時のみだ。それ以外の命令では瞳の色は変わらない。そう……作られている。その邪悪な瞳は、まず普通の人間ならあてられる」
そして芹霞を見た。
哀しげな金の瞳で。
「お前の声が奪われたのは、制裁者(アリス)の真紅の邪眼のせいじゃねえ。それはもっと故意的な……もっと意図的なものだ」
「何ですか、それは」
桜が堅い声を響かせる。
「お前を手に入れる為の、制裁者(アリス)唯一の司令塔たる、ある元老院の意思だ」
「御階堂かよ!?」
煌が声を荒げたが、陽斗はゆっくり首を横に振った。
「違う。
――"あの女"だ」
指さしたのは――
桜が見せた写真。