ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
ぎゃはははは、陽斗が笑った。
「そう簡単にいくかよ。あの女は、氷皇を従えられる奴だぜ?」
やはり、そうか。
氷皇は彼女の命に従って、
御階堂の元にいるということか。
主たる"マスター"は、彼女か。
藤姫たる亜利栖。
いや…むしろ、
亜利栖の姿をした、藤姫、か。
「彼女の目的は何?」
「御子神祭に乗じた……東京の破壊」
陽斗は無表情のまま言った。
「その為の呪詛。その為の血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)。
――そう言えばお気に召すか?」
ぎゃはははは。
笑い声が空しく聞こえる。
その時、玲の携帯が鳴った。
「ああ。そうか……え? 全員? 僕もか!?
……いや、それが元老院からの命令なら……ああ、判った」
電話を切った玲が渋い顔をした。
「どうした?」
「ん……元老院から接見命令だ。
剣舞の舞台となる明治神宮に正装で。
櫂と煌と桜と僕と」
「全員でか?」
「そうだ。時刻は12時。あと1時間ちょっとだ」
そして玲は困った顔をして腕を組んだ。
「さて。そう元老院から命令が来たけれども、まずこの結界を出てもいいものか。そして芹霞を残していいものか。
どう思う、櫂。これは誘いか?」
俺は考え込んで、陽斗を見た。
「お前は……何か知っているんだろう?」
陽斗は顔を背けた。
「俺のことはいい。だが問題は芹霞だ。お前は芹霞を守れるか」
すると不機嫌そうな顔を向けられる。
「藤姫に近づくことが容易ではないのなら、制裁者(アリス)の原型たるお前なら気づきえる方法があるんだろう?」
でなければ、緋狭さんは陽斗に託さない。
緋狭さんでさえ、近づけない藤姫なら。