ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「え、何だい、神崎。
"いいの?先輩や蒼生を裏切って"?
裏切るも何も、ボクはただ壮大なゲームを作りたかっただけで。本当の処はあいつらが何企んでいるのか一切教えてくれなかったし。とにかくゲームを作って、呪詛を組み込んで……だけが目的だったからね。
結局はサーバを"解放"してしまったけれど、これはやむを得ないね。ボクが作ったものはボクが責任とらなきゃ。
ところでさ。
少しここでの会話を盗み聞きしてしまったんだけど、ボクのプログラムを破ったのは、君かい?」
遠坂は立ち上がり、玲の真っ正面に立った。
「ふうん。君があの酷いハッカーなのかー。そうは見えないね、『伝説戦記アルガルド』のフィン皇子みたいだね。表面上は優しい王子様、実は腹黒の裏ボス」
俺にはさっぱり判らない固有名詞を出して、物珍しげにじろじろと玲を見ている。
「君のオタク歴は?」
「オタク……」
少し玲は傷ついているようだ。
「玲のオタク歴は半端じゃねえぞ。
お前とは比べもんになんねえから」
煌が得意気に説明した。
「玲っていうのかい?
レイねえ……ボク知らないなあ」
首を捻る遠坂に、玲は苦々しい顔を向けて言った。
「ゼロって言えば判る?」
「ゼロ?」
「君とはよく対戦しているよ」
遠坂の眉間に、思い切り皺が入る。
「ゼロって……ボクがどうしても勝てない、いつもよくて引き分けの、あのゼロか!? オンライン格ゲーではありえない裏技奥義のオンパレード、しかも瞬殺のあくどい奴」
「ははは」
「ふらってやって来てふらっていなくなる、あの謎多きゼロなのか!!! 道理で……。いやそれなら、納得だな。ボクの自慢のあのゲームプログラム破られて、結構プライド傷ついていたから」
「あのさ、由香ちゃん」
玲が微笑みながら、遠坂を見つめた。
「何だい?」
この笑みを見せられて動じない女は、芹霞以外に初めて見た。
中々の…強者だ。