ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
そんないつもの朝。
特進科に向かう2人と別れたあたしは、普通科『2-B』の教室のドアを開けた。
見慣れた教室。
生徒がまばらな室内の、前から3列目の窓際の席に赴く。
あと15分程で朝礼が始まるというのに、ここ数週間、やけに登校生徒が少ない。
昨日追いかけられた肉食女達も…今日はまばらだし、あたしを見ても携帯を弄っていて、大人しい。
何だろう。
休んでいる彼女達は熱でも出て、登校している彼女達は、熱が冷めたんだろうか。
勿論、我が幼馴染達への。
「…のはずないか」
あたしは苦笑した。
「おっはよー、芹霞」
後ろから名前を呼ばれる。
斜め後ろの席に座る我が友、宮原弥生だ。
「いつもながら両手に花の登校でいいわねー?」
腰まであるさらさらの茶髪を、手で掻き揚げながら意味ありげに含んだ笑いを、大人びた顔に浮かべている。
あたしには、自称"マブダチ"として勝手に腕を絡ませてくる、話もしたことのない子は沢山いるけれど、親友と呼べる同性の友達は、彼女以外に居ない。
女達から追いかけられているあたしを助けてくれない薄情者だけれど、あたしを利用して櫂達に近づこうとせず、純粋にあたしを友達として扱ってくれるから好き。
「非凡な幼馴染みを持つとそれなりに大変なのよ。昨日は櫂の家に泊まったから、今日は殺されないように気をつけなきゃ。煌もあっち行っちゃったし」
「……うわあ、意味深。お泊り、なんて」
「判っている癖に。玲くんも桜ちゃんも居るから、合宿みたいなものよ。というか、先に眠り込んでしまって…気づいたら朝だったけれどね」
「あら、如月くんはお泊りしなかったの?」
「一緒よ。最近櫂の家に家出しちゃってるの。煌はあまり詳しく言わないけど、緋狭姉曰く"思春期特有の反抗"だって。多分あの人が原因ね。だってあの緋狭姉が、反抗を許していること自体おかしいもの」
「忠義に篤い如月くんが緋狭さんに反抗するのは、案外触れられたくない部分に触られたとかね?」
「は?」
「とうとう自覚しちゃったのかな。どうするつもりだろうね、如月くん」
「??」
弥生は何か判っているのだろうか。
訊いたが――
「そういうことは、本人が言うもの」
そう笑ってはぐらかされてしまった。
うぬぬ…よく判らない。