ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「そうか…先に気づいたのは、緋狭さんだったのか。さすがだよね。緋狭さんって本当に怖いと思うわ。見透かされてる気がするもの。

何ていうか"格"が違うの。"神"?」


弥生が緋狭姉と会ったのはただ一度のこと。


あの時緋狭姉は、超辛口日本酒の『鬼殺し』の一升瓶片手に、明るいうちからぐびぐび呑み出し、いつもの如く…下ネタ満載で弥生に絡んでいたはずで。

同性でも、緋狭姉の"人間"は、超越されてしまうのか?


あたしにはそんな崇高な要素は、全く感じない。


「ただのぶっ飛んだ飲兵衛の…下ネタ好きなオヤジだけだと思うんだけれど」


そして溜息をついた。


「昔の緋狭姉はもっとこう……きりっとした、理知的で"出来る女性っ"て感じだったんだよ。だけど親死んだ頃からかな、突然一人暮らしやめて家に戻ってきたと思えば、ああいう風になって片手失くしてるし。まあ左手だけでも生活に全然支障ないからよかったけれど、一体なにやらかして腕失くしたのか、一切語らないし」


語って貰いたい。

どんな姉でも、たった1人の姉なんだし。


だけど――

緋狭姉は何も言わない。


聞きたいというあたしの空気を事前に察知して、煙に巻く。


「無職でぶらぶらしてる癖、あたしと煌を養うだけのお金あるし。突然ふらっていなくなって暫く帰ってこなかったり。今まで1人暮らししてたくせに、金遣い荒いわ、家事一切出来ないわ、だし。謎多き…根っからの自由人だよ…緋狭姉は」



♪キーンコーンカーンコーン…



予鈴のチャイムが鳴る。

本鈴まであと10分となった。


「ねえ弥生。やけに今日は人が少なくない? 特に女の子。居ても皆ずっと携帯弄ってばかりで…だから静かで助かってはいるけれど…。昨日と違うのが何だか不気味…」

「ああ…昨日、月イチのメルマガ配信だったからね」


当然というように弥生は言う。


「は? メルマガ? 何の?」

「え? DL(ダウンロード)したんでしょう? そうしたら来たでしょ、メルマガ。24時間限定で…上手く行けば"3章分"進めるからね。必死でやっているのよ。要するに…サボリ。いつも以上の人数が、今日は家でも学校でもゲーム三昧ね」


んんん?


DL?

メルマガ?

ゲーム?
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