ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
御階堂…充。
また、この男か。
本当にストーカーだ。
「そう警戒するな。氷皇は居ない。
あの人が動いたから――
やはり此処に戻ると思った」
先輩は切なげに目を細めると、
あたしに手を伸ばした。
「神崎……会いたかった」
吐き出すような、小さな声。
少しだけ胸が締め付けられる。
突然視界一杯に金色が割り込んだ。
陽斗があたしと先輩の間に立ったらしい。
「契約は破棄だと言ったはずだが?」
堅い口調で、対峙する金色。
「元よりあんたに従う義務はねえ。
俺が従っていたのは氷皇だ。あんたじゃない」
先輩の顔は、途端不愉快そうに歪んだ。
「氷皇を従わせているのは僕だ」
「あんたじゃない。
――…あの女だろ」
びくっと、先輩の方が揺れた。
「あんたはあの女に利用されているだけだ。さっさと目を覚ましてまともな人生送れ」
陽斗は――
先輩を諭しているのだろうか。
「僕を懐柔するつもりか、道化師の分際で」
先輩が得意とする蔑み方。
しかし陽斗は動じていない。
「なあ神崎。御子神祭の主事、紫堂に返してもいいぞ?」
――!
「紫堂を潰す計画も止めてやる。
……どうだ?」
――!!!
「ぎゃははははは」
陽斗が笑い出した。
「ありえねえ」
その金の瞳は冷たくて。
「マジでありえねえ」
あたしも思う。
先輩は何か企んでいる。