ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


 
御階堂…充。


また、この男か。

本当にストーカーだ。



「そう警戒するな。氷皇は居ない。

あの人が動いたから――

やはり此処に戻ると思った」


先輩は切なげに目を細めると、

あたしに手を伸ばした。


「神崎……会いたかった」


吐き出すような、小さな声。

少しだけ胸が締め付けられる。


突然視界一杯に金色が割り込んだ。


陽斗があたしと先輩の間に立ったらしい。


「契約は破棄だと言ったはずだが?」


堅い口調で、対峙する金色。


「元よりあんたに従う義務はねえ。

俺が従っていたのは氷皇だ。あんたじゃない」


先輩の顔は、途端不愉快そうに歪んだ。


「氷皇を従わせているのは僕だ」


「あんたじゃない。

――…あの女だろ」


びくっと、先輩の方が揺れた。

 

「あんたはあの女に利用されているだけだ。さっさと目を覚ましてまともな人生送れ」



陽斗は――

先輩を諭しているのだろうか。


「僕を懐柔するつもりか、道化師の分際で」



先輩が得意とする蔑み方。

しかし陽斗は動じていない。


「なあ神崎。御子神祭の主事、紫堂に返してもいいぞ?」


――!


「紫堂を潰す計画も止めてやる。

……どうだ?」



――!!!





「ぎゃははははは」




陽斗が笑い出した。



「ありえねえ」



その金の瞳は冷たくて。



「マジでありえねえ」




あたしも思う。

先輩は何か企んでいる。






< 570 / 974 >

この作品をシェア

pagetop