ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
"条件は?"
あたしが携帯を見せると、先輩は口許を釣り上げて笑った。
「お前が祭の中心……あいつらの姿を間近で見れる場所に行くこと。
……これならどうだ?」
まあ、なんと嬉しい条件。
だけど――。
「何考え込む? これ以上ない条件を提示してやっているのに」
何だろう。
先輩焦っている。
必死になっている。
あたしが祭を見ないといけない状況に追い込もうとしている。
あたしは――断るべきだろうか。
そう迷っている時だった。
「神崎……悪かった」
突然先輩が頭を下げたんだ。
あたしは吃驚して。
陽斗も吃驚して。
「!!!!?」
思わず陽斗と顔を見合わせた。
青天の霹靂とはこういうことだろう。
言葉が出てこない。
まあ、声は出ないのだけれど。
「今までのこと――…
どうか赦して欲しい」
そしてこちらを窺うように、
少し顔を上げてあたしに視線を合わせた。
「紫堂にも、手出ししないから」
真摯な表情に、あたしの心はぐらりと動いた。
「だから――
全ての計画を白紙に戻すから……元老院の地位も放棄するから、だから償いの代わりに、お前が今本当に望むことをしてやりたい」
真っ直ぐな瞳。
「させて……下さい」
消え入りそうな声だった。
…………。
沈黙が…続いた。
「芹霞ちゃんよー」
陽斗が固い顔を向けてきた。
「まさか、こいつを信じるつもり?」
その顔から無理矢理に感情を見出すとすれば、
――警戒。
陽斗は先輩を信じていない。