ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
先輩は震える声で言った。
「信用されないのは判っている。
だけど信用されたいんだ」
泣きそうに潤んだ瞳。
「チャンスが欲しい」
だからあたしは――
「神崎、頼むから」
こくんと頷いたんだ。
「おいおい、芹霞ちゃん待てって」
その声音に微かな侮蔑の色を混ぜて…あたしを制する陽斗を、視線で抑えた。
信用、してみようと思う。
彼だって人間だ。
あたしだって人間だ。
やり直すチャンスはあってもいいはずだ。
由香ちゃんと同じく。
そして紫堂が祭の主事に再任されたら。
あたしは先輩と陽斗と共に、櫂と煌の剣舞を見ようか。
怒りや恨みを超えた世界を、信じてみたい。
やがて陽斗は舌打ちして、あたしから顔を背けた。
ごめんね、陽斗。
あたしは先輩を信じてみる。
再び舌打ちをした陽斗は、諦めたように頭を一度大きく振ると、あたしの耳元に顔を寄せ、早口で囁いた。
「どんな時でも俺はお前を守る。それだけは忘れるな」
その金色の瞳は、剣呑に光っていたけれど。
だけど――
はにかんで笑う先輩の手を取ったあたしは、気づかなかったんだ。
先輩の顔が――
不敵に、
嘲るように…
歪められていたことに。