ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「芹霞、それ…マイクロSDカード?」


ポケットに"異物"があった可能性を考え、朧気な記憶を辿っていく。


――ぎゃはははは。


弥生の言う名前のものかは判らないが、昨夜被害にあって、加害者になり損ねた…あの少女から手渡されたものじゃなかろうか。


「そのマイクロ……って何?」

「パソコンや携帯共通のデータカードよ。携帯に付属してて、写真とか音楽とか入れたり、携帯アドレス帳とかお気に入りページとかも記録出来たり見ることが出来るわ」


弥生は、あたしの携帯の側面にある小さな蓋を開け、同じような小さくて黒いカードを取り出して見せた。


データカード…。


「じゃあさ、これも携帯で見れるのかな?」

「見れると思うよ。見てみる?」


頷くと弥生は慣れた手つきで、SDカードを差し替えた。

携帯のメニュー画面からSDデータ管理画面を出している。


「画像なし、音楽もメールも入ってないし……ん? なんかメモデータが入ってるみたいだわ。……本文にアドだけ記載か。どうする、接続してみる?」


あたしはこくんと頷いた。


「じゃあこのアドをコピーして、ネット画面に貼り付けて……」

「凄いね…弥生。いつからこんなに機械のこと詳しくなったの?」

「イマドキの女子高生は常識よ。スマホを持つだけが流行じゃないわ」


あたしと弥生はアンチスマホ同盟を組んでいる。


携帯慣れしているあたしにとって、あの物体は未知なるもので。

機械を使いこなしたいのなら、使いこなせる奴が使えばいいことで。

例えば…機械に詳しい玲くんとか。


携帯電話として持つのなら、メールと通話さえ出来ればいい。

写メ以上の機能は混乱するだけだ。


第一、スマートフォンの癖に、略すると"スマホ"となるのが気に食わない。

どうして誰も突っ込まないんだろう。

"スマフォ"と言え!!

下唇を歯で噛んで…"フォ"!!!


そんなあたしとは違い、弥生は至って現実的で。

――スマホ、ロックかけられないじゃない。セキュリティー甘いし。

今付き合っている彼氏に、遊んでいることを知られたくないらしい。


その流れで、携帯における"証拠品"となりえる…SDカードの扱いに強くなったんだろう。

そうに違いない。
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