ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
空気が…微かに震えてざわめく。
それは…元老院の動揺のようにも思えた。
「何を証拠に……」
忌々しげに声を絞るのは、玲様を詰った老人。
「大体、御階堂と紫堂とでは、歴史の重みが違うではないか!」
「歴史は敵いませぬが、勢力では如何なるか」
くつくつと櫂様は喉元で嗤う。
「寝ぼけるではないわ。御階堂グループ勢力は、紫堂の倍はあること忘れてはおるまい」
「倍以上……はて?
そうだったか、玲」
振り返った櫂様は、本当に愉快そうな顔で。
それに応える玲様も、朗らかな顔つきで。
「今頃、御階堂傘下のグループは、紫堂に助力を乞うていることでしょう」
玲様はにっこりと言い切った。
「まさか…お主……」
元老院が息を呑んだ時、
パチパチパチ。
「さすがは気高き獅子」
拍手と共に、突如現れたのは少女。
「きっちり午後1時、丁度今の刻。御階堂全傘下企業を急襲した…突然の悪評流布による株価下落操作と強引なM&A。
御階堂本家は対処出来ず傘下を切り捨てました。彼らの命運は、手を差し伸べた紫堂にかかっています。……お見事」
腰まである長い黒髪。
濡れた黒い目と紅い唇。
目元に3つの黒子。
藤色の着物。
ああ――
篠山亜利栖だ。