ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
├お姫様の咆吼
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陽斗はとても機嫌が悪い。
元々笑顔を振りまくような愛想の良い男ではなかったが、縄張りに踏み込まれた動物のように、先刻から先輩を睨み付けて威嚇している。
あたしの横を決して離れない。
先輩があたしに触れようものなら、刃物より鋭利な金色の光を瞳に湛えて、超速度で先輩の手を払いのける。
かつて敵だった陽斗に、かつて陽斗の味方だった先輩から守られる図というのは、おかしなものだ。
あたしは今、施設に乗り付けてきたという、先輩の車の中に居る。
紫堂のベンツ程の広さはない、こじんまりとも思える後部座席には、あたしを真ん中として右に先輩、左に陽斗。
何て息の詰まる車内だろう。
「ははは。警戒されちゃったな」
苦笑する先輩は、哀しげな目をしていて。
少し前までは、積極的に関わり合いたくない…嫌悪の王様のような存在だったが、それでもそう思わせる態度を改めると聞いてからは、前程の拒絶感はない。
あたしも単純なものだ。
かといって好意があるわけではない。
それでも先輩が櫂の執着を諦めてくれるのなら、そして以前のような権威をちらつかす横暴さがなくなるのであれば、あたしも少しずつ先輩に対する態度を変えていかないといけないと思っている。
陽斗はとても機嫌が悪い。
元々笑顔を振りまくような愛想の良い男ではなかったが、縄張りに踏み込まれた動物のように、先刻から先輩を睨み付けて威嚇している。
あたしの横を決して離れない。
先輩があたしに触れようものなら、刃物より鋭利な金色の光を瞳に湛えて、超速度で先輩の手を払いのける。
かつて敵だった陽斗に、かつて陽斗の味方だった先輩から守られる図というのは、おかしなものだ。
あたしは今、施設に乗り付けてきたという、先輩の車の中に居る。
紫堂のベンツ程の広さはない、こじんまりとも思える後部座席には、あたしを真ん中として右に先輩、左に陽斗。
何て息の詰まる車内だろう。
「ははは。警戒されちゃったな」
苦笑する先輩は、哀しげな目をしていて。
少し前までは、積極的に関わり合いたくない…嫌悪の王様のような存在だったが、それでもそう思わせる態度を改めると聞いてからは、前程の拒絶感はない。
あたしも単純なものだ。
かといって好意があるわけではない。
それでも先輩が櫂の執着を諦めてくれるのなら、そして以前のような権威をちらつかす横暴さがなくなるのであれば、あたしも少しずつ先輩に対する態度を変えていかないといけないと思っている。