ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

 
車は銀座の中心街に入り、普段のあたしでは絶対覗くことすらしない、超高級ブランド店の前に停まる。


そこに先導されつかつかと店内に入った先輩は、本当に慣れた態度で店長を呼び出し、手を揉み続ける店長に偉そうに会話して、あたしを指差した。

偉そうな語調はまだ直らないらしい。


どこから現れたか、三人の女性店員が現れて、あっという間にフィッティングルームに連れられ、後から運ばれる山のような色取り取りのドレスに着せ替えられた。


心配性の陽斗が中までついてこようとしたので、痴漢よけの必殺小指踏みつぶしをお見舞いしようとしたら、さすがは陽斗、今度は慌ててかわした。


そんな中、にこやかなお姉さんに聞かれた。


「あなたは御階堂様の恋人?」


とんでもない!!

和解したけれど、全くその気はない。


ぶんぶん、ぶんぶん、頭を左右に振る。


「じゃあ、この金髪のイケメンさんの?」


陽斗はただのぎゃはぎゃは仲間。


やはりあたしは――

ぶんぶん、ぶんぶん、頭を左右に振る。


「…………」


そんな時感じる視線は、陽斗から。

酷く不機嫌そうな顔をして、ぷいと横を向いて…大股でどすどす足音を立てて去ってしまった。


何だ…ありゃ?


「若いって…いいわね…」


うふふふ、と意味ありげに顔を見合わせて笑う店員達。


そして彼女たちは、慣れた手つきで仕事を始めた。


あたしはもう、まな板の鯉状態。


ぼんやりと思ったのは――

確かに、櫂達の勇姿を遠目でよりは間近で見たいけれど、こんな派手なドレスを着用していいのか、ということ。


あたしは上流世界はよく判らない。


それでも、御子神祭の剣舞を櫂に譲る気でいる先輩なら、これがベストの選択なんだろう。

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