ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


店員達が全員満足そうに頷いたのは、胸元に大きな薔薇のコサージュがついた、真紅のマーメイドドレスで。

背中はばっくりあいてるわ、身体の線はみえるわの、羞恥心高める為だけに存在しているようなドレスだったのだけれど、先輩は喜び、陽斗はなぜか紅い顔でちらちらこちらを見るだけで何も言わず、声が出ないあたしの意向など完全無視された形で、決まってしまったようだ。


そしてあたしはその恰好のまま、自然乾燥でぼさぼさになっていたあたしの髪を何とかするために、上階に連れられた。


ブティックの上は美容室らしい。

甘い香りのするシャンプーとリンスで髪は洗い直され、軽くカットを入れられた後は、軽く巻かれてアップに纏められた。


そして化粧。

首筋にアクセサリー。


絆創膏は剥がされたくないので、身振り手振りで…それごと隠せるようなチョーカータイプにして貰った。


タオルはもう乾ききって効果はなさそうなので、おさらばすることになった。


「凄いカビ…」


遠ざかるお姉さんが、タオル見て呟いていたことは、聞いていなかったことにしよう。


そして、完成した"あたし"。


完全化けた。


鏡を覗き込んでしまった程、変わったと思う。


化粧と髪と装飾品とドレスの力は凄い。


驚いた!!

吃驚だ!!


だけど――

たかが剣舞の傍観者としては派手すぎやしないだろうか。

これならば、パーティ……夜会向きだ。



< 590 / 974 >

この作品をシェア

pagetop