ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
階下に降りたあたしの目の前には、シルバーがかったグレイの背広をばしっと決めた先輩の姿。
今まで厳しい顔で携帯で話していたものの、あたしの姿を見るや否や、それはもう、うっとりとした眼差しで、
「神崎……綺麗だ」
そういうことをさらって言える先輩は、やはりピンクに脳内汚染されたいつもの先輩なんだろうけど。
………あれ?
いつの間にやら陽斗がいない。
「あいつ……着替えさせようと触れただけで暴れてな」
部屋の片隅で、周囲を睨みつけ、身体を強ばらせて威嚇続ける陽斗は、拐(かどわ)かされた町娘のようだ。
陽斗はあたしに気づいたようだ。
そして――
「………!!!」
あたしにゆっくりと目を向けたその金の瞳は、これ以上ないという程大きく見開き、そのまま固まってしまった。
似合わない、わけじゃないのだろうけれど、恐ろしいものを見たように硬直する陽斗の態度が些かあたしは不服で。
こんな一流ブランドのドレスを身に付け、髪をセットして貰ってプロに化粧をして貰って。
こんなにお金かけてこんなに技をかけて、それで綺麗にならない女性がいるのなら、むしろその人を見てみたい程で。
"世辞の1つでも言わんか!!"
金髪頭に、体重をかけて…チョップ!!!
「何するんだよ!!!」
まだ言わないから、もう1回チョップ!!!
そんなあたしを引き剥がしたのは先輩で。
「格好が泣く」
まあ…確かに。
金色の瞳と目が合えば、ふいとまた横を向いてしまうから。
最後に特大チョ~ップ!!!
「いてえええ!!!」
これで許してあげましょう。
乙女ゴコロが判らない奴だ。