ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
 

そして、はたと気づいたのはその代金。

あたしは財布を持っていない。


持ってきていたとしても、支払える程のお金は入っていない。


――芹霞、節約の基本はね、必要以上のお金を財布に入れておかないことだよ?


陽斗は――無理だ。

絶対支払える金額ではない。



「僕が支払う。これは僕の詫びだと思って」


借りは作りたくないあたしは、必死にそれを訴え…かなり抵抗したけれど、先輩の強引さはまだ健在で、さっさと支払いを済ませてしまった。


申し訳ないと思う以上に、あたしは落ち込む。


これは庶民の買い物ではない。

"奢って""ありがとう"のレベルじゃない。


返さねば。


声が出るようになったら、分割払いを交渉しよう。


50回…くらの、金利無し分割に対応してくれるかな。

しかも、振り込み手数料…なしで。



「芹霞ちゃんよー」


陽斗があたしの隣で囁いた。


「俺には平気で金使わせるのに、あいつには遠慮するんだ」


何を拗ねているのか、口を尖らせている。


"買い物のレベルが違い過ぎるの!

そういえば、陽斗のお金の出所は?"


携帯を見せて質問すれば、


「あいつ。御階堂」


つまり、薬から始まり…掃除セットも食料費も。


全て先輩に買って貰っていたことになるのか。


借りばかり増える現実に、

思わず項垂れてしまうあたし。





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