ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
一斉にシャッターが切られる音。
フラッシュの応酬。
あたしは先輩を睨み付けた。
穏やかに見えたあの先輩の姿は何処にもおらず。
そこに居るのは――
あたしの嫌いな、人を見下したような男。
怒鳴りたくても声は出ず。
叫び出したくても声は出ず。
泣き出したくても声は出ず。
櫂達を観覧するためのドレスは、
仕組まれていたものだと…
気づいた時には遅すぎて。
――悪かった。
ああきっと――
あたしに頭を下げたのは芝居だったんだ。
この男は――
まだ櫂に狙いを定めているのか。
その為にあたしは利用されたのか。
幼馴染たるあたしに。
その魂胆を見抜けず、おしゃれに気分をよくして、暢気に櫂の剣舞の観覧を愉しみに、陽斗の警告さえも否定して。
あたしはなんて浅はかなんだろう。
婚約なんて馬鹿馬鹿しい。
どうしてこんなことをしないといけないんだ。
婚約なんて冗談じゃない。
あたしはこんな男としたくない!!!
幾ら頭を横に振って、これは違うと周囲に訴えても伝わらない。
あたしの携帯は――
手から落ちて雑踏の中の何処かに転がってしまった。
こんなに近くに人がいるのに。
こんなにあたしの表情を伝えるレンズがあるのに。
それを伝える手段があたしにはないんだ!!!