ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
蒼くなったり――
赤くなったり――
理性を超える爆発的な"怒り"。
その一目瞭然の激情ですら、
"はにかみ"、"照れ"、"動揺"、"緊張"…まるで不似合いな言葉で、先輩はマイクを通して片付けていく。
それに同意する人々は、
何て観察眼がないのだろう。
報道陣なのに…どうして真実を見抜けないのだろう。
やだ、やだ、やだ!!!
あたしの怒りが通じないのなら、
さっさとこの場から立ち去りたい。
陽斗、帰ろう!!!
陽斗に伸ばした手は――
「!!!?」
押し寄せる人の波に遮られ。
舌打ちした陽斗が大きく身体を動かそうとした瞬間に、壇から降りていた先輩に無理矢理腰を抱かれた。
「ご婚約おめでとうございます!!!」
「馴れ初めは何ですか!!!?」
ツーショットにシャッターが切られる。
先刻以上にあたしを取り巻く厚い人の壁。
陽斗とあたしは…離れて行く。
あたしは力一杯抵抗したけれど、腰に回った手は、そのままあたしの腕を後ろで捻り上げ、その痛みであたしの動きそのものを制した。
表面上はにこやかな笑みで。
だけど裏では力尽くで。
陽斗、陽斗!!!
人垣の向こうに陽斗がいる。
暴れたい。
めちゃくちゃに暴れて逃げ出したい。
だけど――
なけなしの理性が、冷静な判断をする。
マスコミに手を出したら、いずれは櫂のゴシップ三昧に繋がると。
先輩は絶対、それを後押しする。
むしろ――
それを望んでいるのかも知れない。
あたしは…櫂の足手纏いになりたくないんだ。
それだけは嫌なんだ。
「芹霞ッッ!!」
苛立った陽斗が、人の壁を力ずくで破壊しようとした時。
あたしは必死で、目で陽斗を抑えた。
駄目!!!
あたし如きで櫂を穢したら絶対駄目。
それを悟った金の瞳はぎらぎら光り、
「んなもん、知るかあああッッ!!!」
陽斗の叫びは、直ぐに押し寄せる夥しい数の人間に埋もれ、
「逃がさない」
耳元で囁かれた不快な声音に…
あたしの全身が総毛立った。