ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
惑い続けながら4年目。
今から、8年前。
――玲。次期当主は…お前だ。
僕の従弟を追い出して。
当時の…次期当主を引き摺り落して。
僕が正式に任命されたら、
母は泣いて悦び、僕を抱きしめて離さなかった。
――ああ、玲。流石は私の玲!!
胸が痛んだ。
僕の従弟は…
どうしているだろう。
次期当主の座を僕にと、決定したのは当主だけれど…間違いなく、僕の存在は誰かを苦しませていると思ったら、辛かった。
僕のせいで、苦しむ者がいる。
僕は、母のようには喜べない。
次期当主になれば。
母の呪縛が解けて、僕は自由になれると…
だからこそ流され続け、
諦め続け…
笑い続けてきたんだ。
外せなくなった、僕の"微笑の仮面"。
満たされることがない、僕の心。
僕の呪いは――
解けたのだろうか。
…充足感がなかった。
――何1つ。
あるのは孤独な…虚しさだけ。
――これが、私の後継…玲です。
当主が僕を"次期当主"として、元老院に紹介していたその時。
僕の従弟は、初めてその姿を僕に見せた。
元老院の住処に、本来なら外部からの侵入はありえないのに。
見張りも沢山いただろうに。
華奢な身体。
少女と見間違える程の可憐さ。
当主が求めている強さは彼にはない、僕はそう思った。
彼はこんな世界に生きない方がいい。
強さが全てのこの紫堂では、
何が真実なのか判らなくなるから。
本当に大切にすべきものは、
此処にはないこと、僕はよく知っているから。