ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
けれど僕の従弟は……
紫堂に追い出されたはずの僕の従弟は。
男の矜持を全て投げ棄て、泣きながら当主に土下座して、次期当主にして欲しいと懇願した。
何も満たされることないその位置を、
今僕が手にしているこの位置を、
どうしても欲しいと泣き崩れた。
当主は従弟を突き放すけれど、従弟は外貌からは想像できないほどの必死な形相でしがみつく。
何が惰弱だ。
彼は強い意志がある。
当主は壁に飾っていた、装飾用の2つの剣を、床に放った。
僕は鍛錬の一環として、武器の扱いには慣れている。
だけど、僕の目の前で怯えたように震える少年は。
蒼冷めた顔をして今にも倒れこんでしまいそうにも見える少年は。
今まで手にしたことがないだろう剣の、銀色に光る刃を目にして、言葉を失っていた。
正直、あの頃の記憶は、
当主の行動と…櫂の様子しか覚えていない。
元老院がどんな様子だったのかなんて覚えてはいないけれど。
面白がられていたのは、判るんだ。
結果は明らかだった。
傷つかないように僕が手加減しているからいいものの、それでも少女のような従弟は、がむしゃらに僕に剣を振るって向かってくる。
完全なる力の差異が、従弟にも判っているだろうに、譲れないその"何か"の大きさに、僕の方が怯んだ。
僕には、そこまでの強い思いを抱いたことがなかった。
諦め、流され…此処まできたから。
形振り構わず、何かを求めたことがなかったから。
求めても…叶わぬからと、求める心さえ失っていたから。
――お待ち下さい、当主。
そして突如現れた紅皇を見て、僕は悟る。
ああ、この場所に彼を連れたのは彼女だ。
僕の指南役でもある彼女。
僕の長所も短所も全て見知る彼女が言う。
1ヵ月後、従弟は僕を打ち負かすと。
彼女の言葉は、絶対的だ。
根拠無いことは口にしない。
その彼女が、言い放つ。
僕は、この従弟に負けると。