ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
間違いない陽斗だ。
………。
まぎらわしいわ!!!
あたしのドキドキを返せ!!!
思わず足で蹴落とそうとしたあたしは、動きを止めた。
陽斗の頬が、少し腫れ上がっている。
断じて、あたしの一打ではない。
あたしの拳は、頭蓋にヒットしたはずだ。
拳に返る衝撃がそれを伝えている。
だとしたら――
やられたんだろうか。
大丈夫だろうか。
思わずぺちぺちとその頬を叩くと、
「だから痛えんだって!!!」
怒られた。
起きていたなら、早く声をかけてくればいいのに。
そうしたら、少なくともあたしは陽斗を殴らずにすんだのに。
陽斗はあたしの心を読み取ったようだ。
「俺だって先刻目覚めたんだよ。露出度高い服着た無防備な女隣に居て、しかもぐっすりと寝て全くもって起きねえし、ああもう~~ッッ!! 立ってても動いてても、頭が全然冷えねえから、空いてたこっちで毛布被って潜ってみただけだッッ!!」
ごめん、よく意味判らないや。
「しかも何だよ、剥がそうとしても、その服離さねえで……」
上体を起こした陽斗は、ぶつぶつ呟きながら、柔らかそうな金の髪の毛を掻き毟った。
その服とは…シルバーグレイの上着のことらしい。
多分あたし、寒かったんだと思う。
それしか説明つかない。
嫌悪の対象を掴んで離さない理由がない。
見ていてそんなに不愉快だったなら、ちょっと陽斗がそっちの毛布をかけてくれればよかったのに。
そしたら毛布を掴んでぐっすり寝ていたのに。
そう思ったけれど、携帯がないあたしには伝達手段はない。
あの携帯、お気に入りだったのになあとか考えていると、陽斗があたしの携帯を差し出した。
「ほら。お前には必要だろ?」
あの人波からよく探せたもんだ。
感嘆半分、呆れ半分。
折角だから携帯で、毛布云々を携帯で伝えてみると、
「………」
そんな単純な事実に、拗ねたのかショックだったのか、項垂れてしまった。