ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



櫂の為にあたしを利用したのか。

あたしの為に櫂を利用したのか。


どちらにせよ、彼が改心していないのなら、あたしはとことん拒絶するしかない。


1年も前からあたしを好きでいてくれたのは驚いたけれど、だけどあたしにとってはただの驚愕だけで。


嬉しいとか

きゅん、とか


そんな感情は生まれていない。


ただ人事のように感じる第三者の自分。

いつも弥生は溜息ばかりつくけれど。


本当にあたしを好きならば、

変な小細工なしでどんとぶつかってこいと思うのは、あたしの奢りなのだろうか。


どんな情けない姿でも、


ありのままでぶつかって来て欲しいと思うのは、不相応の望みなんだろうか。


思えばあたしは"恋愛"についてまともに考えたことがなかったけれど、


あたしが好きになる男は、

正々堂々とした人がいい。


本心を見せてくれる男がいい。


例えどんな姿であろうとも、

姑息な手段を用いたり、仮面を被る男は好きにはなれない。


未来永劫――。


 
御階堂は力なく俯いて、

握った手には反対に力を込めていた。


彼の今の感情は判らないけれど、

あたしの断固とした意思は伝わったのだと思う。


やがてふらふらと立ち上がり、部屋から出て行った。


パタン、という空虚な音が響くと、あたしは溜息をついた。


正直、気分がいいものではない。


非道い女かも知れない。

冷たすぎる女なのかもしれない。

何様だと罵られるかも知れない。



だけど――

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