ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
突然。
本当に突然。
すっかり忘れていたその存在を。
「な、何言って?」
あたしは――
冷たい汗が流れ落ちるのを感じた。
「やだなあ、芹霞チャン。そこの携帯。
俺にオレンジジュース取らせた時から、繋げていたでしょう?」
「な、なななな」
ちらり、と横目で携帯をみると、切れてはいなかった。
まだ通話中だ。
「だから俺、予定より色々沢山お話してあげたんだよ?
……あ、切らなくてもいいよ。スピーカーにして。そうそう。
昨日ぶり~、気高き獅子」
やけに陽気なその声に、
『……はあ』
携帯電話から――
櫂の大きな溜息が聞こえた。