ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
玲は何かが変わった。
――僕は…諦めが悪いみたいだ。
芹霞の想いを…揺れながらも抑えていた玲に、何かをふっきったような強い光が宿った。
それは…
覚悟を決めた男の顔で。
多分それが本当の玲のはずで。
突き刺すような真っ直ぐの眼差しに、俺の方が思わず顔をそらしたくなった。
優しげな微笑に隠された虚ろな色はなく、笑って誤魔化す…いつもの玲ではない。
剥き出しで何か乞い求めるその姿。
自ら動こうとするその意思。
それにたじろいで揺れる俺は、
"ありえない"と…今まで玲を軽んじていたということなのか。
何を?
どんな根拠を持って?
芹霞への想いを知っても尚、
それでも安心していたこの俺は。
紫堂玲という男を認めていなかったということか?
どう反応していいか判らなかった。
我慢させ、諦めさせてばかりいる元凶は俺なのだから、いつか俺が玲を解放してやりたいとは思っていたけれど、
解放出来る存在が俺ではなく…芹霞だということを知った時、嫉妬を覚えたのは誰に対してなのだろうか。
玲か、
それとも芹霞か。
争いたくはない、正直。
どうして芹霞なんだと問い質したい。
だけど芹霞だから、玲は惹かれたのだと…そう納得する俺もいて。
芹霞以外は玲を動かすことは出来ないと、信じきっている俺もいて。
紫堂を、俺を護り続けてきた玲が、自らの"暴走"を宣言した時。
俺は――
玲と争う未来を予想した。