ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
その時だった。
突然玲の携帯が鳴ったのは。
「……え、何だって? 本当か!!?」
玲の慌てた声も、俺の頭には遠くに響いて。
――坊、腹括れよ?
『あはははは。首尾は順調みたいだね。山の手線はどう? 東京の中心地をぐるっと取り囲んでいた線は、血でまあるく繋がった?』
「繋がる?」
桜が硬い声を出した。
『時が来たんだよ、気高き獅子』
氷皇がそう言うと同時に、電話を切った玲が声を荒げた。
「櫂、罠だ!!」
「あ!?」
煌の声。
「東京の五芒星が走り始めた。由香ちゃんから連絡だ。血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)が、星の形に移動しながら増殖して向かっていると。彼女の作っていたプログラムが…発動始めたらしい」
俺は玲の顔を見た。
「血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)は呪詛だ。呪詛が最後の星の頂点である、櫂に一斉に向かっている。櫂が倒れれば、多くの血を供儀にした、東京の…邪悪な魔方陣は完成し、恐らく…東京自体崩壊する」
俺は顔を顰める。
「今由香ちゃんが僕のプログラムに改良を加えて、大急ぎで呪詛の……凶言の部分だけでも取り除く努力をしている。
僕達が此処に足止めされていたのは、代々木……渋谷を担ったお前を襲わせる為だ」
『あはははははは』
氷皇の笑い声が、後ろの芹霞の声を掻き消している。
『此処にくる? 日比谷のロイヤルホテル。芹霞チャンは無事だよ。だけど東京が破壊されちゃったら、命の保証は出来ないけどね、あははははは~』
俺はぎりっと歯軋りをした。