ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



『……俺に指図すんな』



不機嫌そうな陽斗の声。



『でもよー』


ガシャアンという何かが割れる音。


『今まさにそう思ってた処だ!!

ぎゃははははは』



『陽チャン、逃げられると思ってるの?』


『氷皇悪いな。

思うじゃなく…するんだよッッ!!!』


そして携帯は切れた。

 
 
「……陽斗は馬鹿ですわね」


桜がぼやいた。


「待ち合わせ決めずに、

……東京中、探し回らないといけないのかしら」


「なんとかなんだろうよ、東京も結構狭いぜ?」


「随分と楽観的だよな、煌は。そういう時こそ、芹霞の携帯につけた僕のGPSだよ。

うん大丈夫。芹霞は携帯を持ってくれている。大きくはないけど移動はしているみたいだ。氷皇相手だからそう簡単にはいかないかも知れないけれど、だけど信じるしかないよね。

場所は日比谷のロイヤルホテル……拡大して……ああ、15階のセミスイートにいたのか」


「うわっ。何、お前の携帯で芹霞の位置が判るのか!!? お前……地味に芹霞のストーカーじゃん。何処の誰かみたいに…」


「僕をあんな卑怯な御階堂と一緒にするな!!」


「そうですわ、馬鹿蜜柑。玲様は正々堂々とした、立派なストーカーです」


「「…………」」



「……ふう」


俺は溜息をついた。


騒がしいいつもの面々は、本当に日常の一場面で。


これからどうなるかも判らないこの中で、笑っていられるのは不思議なくらいだ。


不安だからこそ、笑いあいたいのか。



願わくば――

いつまでもこの中に居たい。



芹霞と…共に居たい。


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