ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「例え万が一運良く、瀕死で俺から逃れられても、地上では血色薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)の大群。その威力はどれ程か、判らない陽チャンじゃないよね」
陽斗は戦闘態勢を崩していない。
「気高き獅子も残虐だよね。同じ死ぬなら、人間らしい死に方を選んであげればいいのにね。血色薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)に食いつかれて肉片にさせたいのかな。あははは。陽チャンに関しては、食われてる最中にでも再生しそうだから、肉片まで時間かかりそうだね。あはははははは」
そして蒼生は椅子の裏にあった紙袋から何かを取り出し、陽斗に投げ寄越した。
弧を描いて、陽斗の手に収まったもの。
それは――
「鉤爪!!!?」
しばらく目にしていなかった、陽斗の武器だった。
「"偶然"、ここにあってよかったね~」
偶然などありえない蒼生。
だとすれば。
陽斗に武器を手渡す魂胆は何なのだろう。
陽斗は鉤爪を胡乱げに見ていたが、それを素早く装着した。
普段は服の袖の中に隠せるらしい。
「……地獄の中でもがいてみるがいいさ。きっと俺の方が優しいよ?
ここから逃れたことを後悔してしまうから。あはははは」
その時、コンコンと外からドアが叩かれる音がした。
「ああ、先刻みっちゃんが頼んでいたルームサービスだね。言っておくけど、俺が食事をしている間だけだ。
それを過ぎたら…容赦しないよ?」
酷薄な笑みに浮かんだ一筋の狂気。
本気だ。
この機会を過ぎれば、蒼生は本気でかかってくる。
「それから。この部屋の外は警護が煩いから窓からの方がいいよ」
蒼生は親指で、陽斗が壊した窓を指差すと、あたし達にくるりと背を向け、ノックがされたドアに向かった。