ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
陽斗はあたしを掴む腕に力を入れた。
あたしは意を決して口を開いた。
「陽斗。あたし陽斗を危険な目に合せたくない。
敵に戻るのは嫌だけど、だけど……」
蒼生に縋ることで、この先の地獄に背を向けられるのなら。
「あたしは大丈夫だから」
陽斗には、もう苦しんで貰いたくないんだ。
それくらいなら――。
すると陽斗は大きな溜息をついて、更にあたしの腕に力を込めた。
「言ったろうが。お前を護るって」
「でも……」
「紫堂櫂に言われたからじゃねえ。俺は俺の意思で、お前を護るって決めたんだ。お前はごちゃごちゃ言わずに、護られていればいい」
そして笑う陽斗は。
今まで見た中で一番綺麗な顔をしていて。
「お前さー、何気に冷たいよな」
「え?」
「危険侵してまでお前が会いたいと思う"奴ら"の中に、俺は入れてくれねえの? 俺とはここで別れて平気?」
「いや、そういう訳じゃなくてね」
「……頼れって俺を。
俺だって"男"なんだよ」
そう、哀しげに笑った。
そして陽斗はあたしを両手で抱くと…
"屈辱"のお姫様だっこのをしたまま、割れた窓をくぐり抜け――あろうことか、ごま粒のような下界に向けて跳ね降りたんだ。
落下……。
落下……。
「ぎゃああああああああ!!!」
何階よ、此処!!!
死ぬ死ぬ死ぬッッ!!!!