ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
あたしは、ぐらぐらする頭でホテルの建物を見上げる。
巨大な…ホテルの建物を。
どこら辺から落ちてきたんだろう。
ああ、駄目だ。
何か吐きそう。
そんなあたしに比べて、陽斗はピンピンだ。
「ど、どうして陽斗くんは平気なのかな……?」
「あ? 俺は緋影だぞ? こんな程度の落下実験なら、慣れきっている」
"実験"。
何とも反応に困るお答え。
「そんな顔すんなよ。
だから――
俺は役に立つだろ?」
陽斗は笑いながら、ぐしゃぐしゃとあたしの頭を撫でた。
「利用しろ、俺を」
金の瞳は切なげで。
「それで近くにいれるなら…
俺はそれでいいから」
金髪が、翳った陽斗の頬を掠めて滑り落ちた。
「ねえ、陽ちゃん」
「……その呼び方やめろ」
「利用するとかしないとか、そういうの抜きに出来ないかな」
「……あ?」
「一緒に居たいから一緒に居る。
それだけじゃ駄目なのかな。
理由が必要なのかな?」
あたしは金の瞳を覗き込んだ。