ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


陽斗は、少し当惑したような顔で、返答に窮していた。


まるで怯えてでもいるような、弱々しい金色の瞳が向けられる。


あたしの真意を探るように。

あたしの中の、何かを求めているように。


その何かまでは、あたしには判らなかったけれど。


「陽ちゃん」

「だからその呼び方やめろって」


「理屈っぽいのは嫌われるよ?」


黙ってしまった。


「そりゃあ陽ちゃん、平凡でぬくぬく過ごしたあたしなんかより色々抱えてきて人間不信になるのも判るけどさ。

でもあたしを信じてくれるって言ったじゃない。


だったら――

もっと素直にあたしを信じてよ」


「………」


「すぐには無理かもしれないけどさ、少しずつでいいから……理由抜きで一緒に居ようよ」


陽斗は大きく溜息をついて、そして泣きそうな顔で斜めに見る。


「でもよー、お前は……」


それは本当に哀しそうで。

そして唇を動かしかけた陽斗は、瞬時に…表情を固くさせたんだ。


「……芹霞」


2人で居る時に、呼び捨てで呼ばれるのは殆ど無いから。

あたしの身が、思わず跳ねてしまった。


同時に、あたしを擦抜けたその面差しに。

この強張ったような真剣な顔に。


あたしは、現状を悟った。



「絶対俺から離れるなよ」


そう言って鉤爪をシャキンと装着した陽斗は、


「必ず、会わせてやるから」


何処までも…鋭い顔立ちだった。



ああ――


始まるんだ。


地獄、が。


ホテルの庭に、植え込まれた鬱蒼と茂る木々が…段々と強まる邪な気配に、戦いて震えたような、気がした。



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