ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


今だって、複数の力を同時に発動させて、それでも発作を起こさない。


今まで守りのみに力を注いでいたその力が、玲が避けていた"攻撃"に躊躇なく転じられている。


紫堂の力では一番だと思っていた櫂の力と、同等の力を俺達の目にも晒すことは、櫂に遠慮していた昔には絶対ありえねえことで。


玲は玲なりに必死になっているということか。


――芹霞を。


どうしても芹霞を諦められねえってことか。



俺は――。


俺だって――。



俺は唇を噛んだ。




俺は取り柄がねえ。


何より橙色だし。


弱いし。

ヘタレだし。



だけど――


――婚約者たる、神崎芹霞さんです。


あの時。


俺は確かに御階堂の顔は見たけれど。



だけど同時にその奥に、

俺は櫂の姿を見てしまった。



ああ、こんな風に俺から芹霞を奪うのだと。



芹霞は俺のものではないのに、


"俺の芹霞"を奪うのだと。



芹霞の相手が誰だろうと…


俺はテレビの向こう側で、

現実をただ見ているしかないのだと。


そう思った時、


――俺ももう……無理だ。


そんな櫂の言葉が、俺の言葉になって。


――諦めが悪いみたいだ。


玲の言葉も、俺の言葉になったんだ。

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