ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
├警護団長の不安
桜Side
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紫堂というものは、特異な集団である。
表向きは財閥、実業家的なイメージが強いが、実質は違う。
その血を引くものは、それが肉体的であれ、精神的であれ、常人には理解しがたい"異能力"を持つという。
それ故、東京最大の権力者に気に入られ、そのバックアップにここまで急成長できた。
その代償は、非情なまでの奉仕。
紫堂は常に監視されている。
それに対抗するように作られたのが、警護団というものである。
体裁は紫堂の要人の警護(ガード)だが、諜報や工作など、表に出せないような全ての策略実行部隊。
お庭番、というのは聞こえがいいけれど、実際はもっと穢れている。
――紫堂の為に生き、紫堂の為に死ぬ。
幼い頃から、そう叩き込まれた私――
葉山桜にとって、それは、然程抗すべき事柄ではない。
自分の命を預ける場所は、私が納得できる最高の場所でありさえすればいい。
私は生まれながらに高い戦闘能力があり、幼少から大人の実戦に狩り出され、期待通りの実績を積んできたようだ。
敵は確実に、素早くしとめる。
動物的な狩猟本能は、更なる真紅色の高みを目指し、気づけば残虐な世界に一人佇んでいた。
それを私欲に向けなかったのが、僅かな救い。
紫堂の為という精神に刷り込まれた縛りが、私という存在をかろうじて支えていた。
私以上に強い者はいない。
そんな思い上がりにも似た矜持を、
木っ端微塵に打ち崩した男が、玲様だった。
なぜ拳を交えたのか――
今となってはその原因が思い出せないけれど。
――ふふふふ。
玲様は笑顔を崩すことなく、私を制した。
その晩、私は――
初めて悔し涙というものを経験し、それ以来、必死に技を磨いた。