ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


判っていたさ。


あの場では全てを堪えないといけねえくらい。


だけど。


少なくとも玲が暴走を覚悟していたぐらいには、俺も自分に自制ができなくて。


会いたい。

無性に会いたいんだ。


どうしても抱きしめてえ。


そう思っているのは俺だけじゃねえかもしれねえけど。


いや……皆絶対そう思っているけれど。

身の程知らずと言うかもしれねえけど。


だけど俺は――

芹霞が欲しいんだ。


それを…再認識させられたんだ。



俺が芹霞への想いを自覚した時、


どうしていいか判らず、逃げてばかりいた。

櫂という圧倒的な存在に怯えていた。


芹霞を諦めようとしてもそれも出来ず。

櫂を打ち負かす程の力もねえ。


何より、裏切りたくねえと…罪悪感で一杯で。


今だって、ようやくこうして…

想いを残すことで平衡をとっている。


それはただの…俺の自己満足。

それで全てが丸く収まるのなら、それでいいと思っていた。


心から祝福出来る広い心もねえけれど、この想いを消す辛さを比べたら、何とか耐えられると思ってた。


だけど。


御階堂が芹霞の隣に立った時。


このまま何処かに行ってしまうのなら、

他のものになっちまうくらいなら…。



芹霞。


それくらいなら、俺――

――お前に言うよ。



お前を誰にも渡したくねえ。


お前が好きだと。


テレビの向こう側での俺の後悔。



もう俺はしたくねえ。


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