ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「出来ないから、由香ちゃんに頑張って貰っていたんだけどね」
玲は鳶色の髪の毛を掻き上げた。
「呪詛の気が感じられませんわね」
桜が鋭い目を周囲に向けながら言った。
「これならばまるで――」
「ただの"生ける屍"だよな」
櫂が桜に続けた。
「体力消耗を狙っているのか? 兵糧攻め?」
俺がそう言った時、玲が腕時計を見た。
「2時40分。……3時じゃない」
怪訝な顔だった。
「確か遠坂由香は、"3時"と言っていたはずですわ」
玲は遠坂に電話をした。
「……おかしいな、繋がらない」
"青山1丁目"を通過する。
やはりここにも芹霞も人間の気配もねえ。
「――!!!」
"赤坂見附"駅が間近になった時、
俺達は目を細めた。
気が……
凶々しい気が半端じゃねえ。
「櫂様、玲様、大丈夫ですか!!?」
薄ら暗い照明の下、2人の顔色が悪いのが判った。
「此処……だね。呪詛が……あの本物の血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)がいるんだろう」
玲が笑いを造りながら、駅を見渡した。
「赤坂……紫堂本家。
振り出しに戻ったか」
櫂が嘲るような笑いを作る。
以前倒れた時よりは、まだ余裕があるみたいで安心した。
これも玲の結界のおかげなのかもしれねえ。