ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
愛しそうに芹霞の髪をまさぐる櫂の手に
激しく嫉妬して。
どうしてあの位置に俺はいないのかと。
櫂を殴ってでも芹霞を抱きたいと。
持ってはいけない激情が逆流しそうになった時、
「……煌」
俺の腕を掴んだ玲が静かに頭を横に振った。
玲にも見えているはずだ。
苛立った俺に、鳶色の瞳は弱々しく光り、
「判っているだろ?」
その言葉だけで俺を制する。
切なそうに…力なく項垂れた玲の様に、俺は何も言い返すことは出来なくて。
俺の脳裏には――
芹霞の髪を撫でる櫂の手。
櫂の首筋に回った芹霞の腕。
残像は頭から離れない。
あれが俺だったら。
そんな想いが離れて行かねえんだ。
暫し…俺たちは無言だった。
嵐が過ぎるのを…
ただ待っているかのように。
「……陽斗は?」
不意に間近で聞こえた櫂の声。
気づけば櫂も芹霞も、俺の横にいた。
どれ程…現実逃避してたんだよ、俺。
芹霞の服はぼろぼろで。
テレビの中での紅いドレスではあったけれど、丈が膝上になっている。
わざと、動きやすいように引き裂いたのか。
「陽斗は――」
そういうと芹霞は唇を噛んで
――泣き出したんだ。
どくん。
よからぬ予感に、
俺の心臓は飛び跳ねた。
まさか――