ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「芹霞、足…大丈夫? 僕の靴でも…っていいたいけど」

「大きすぎるよ。大丈夫大丈夫」



芹霞は裸足だ。しかも素足だ。


所々切れて、血と泥に塗れている。


俺は居たたまれない心地でそれを眺めた後、電源が切れた自動販売機に偃月刀を振り、中を切り開けると、水のペットボトルを取り出した。


蓋を開けて一度呑んだ後、芹霞の元に戻った。


そして椅子に座っている芹霞に、かしずくようにしゃがみ込んで、残り水を芹霞の足にかけて、掌で優しく洗ってやる。


「お前さ、一応女なんだから。

大事にしろよ、身体……」


言いたいことは色々あるのに。


「………」


櫂と玲と桜は、これからのことを話し込み始めた。


時折視線は感じるものの…形的には、1対1。


何だか、改まった形で…こうして会いたかった奴に会うと、どう反応していいのか判らなくなってくる。


ああ、駄目だ。


いつもみたいに芹霞の顔が見られない。

いつもみたいに櫂の顔が見られない。



触れたい。

触れたい。



芹霞の足を洗浄する名目で、俺は芹霞に触れている。


そんな名目がなければ、芹霞に触れられない俺は、頼り切った眼差し向ける芹霞を裏切り、邪な心で芹霞に触れている。


芹霞のすべすべとした白肌を、その熱を、掌全体で感じ取る。



櫂の視線を浴び。

玲の視線を浴びて。


優越感などあるわけねえ。

そんな余裕あるわけねえ。


ただ――

目眩がするだけだ。


芹霞の熱に。

その柔らかさに。


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