ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


『良かった、携帯壊れていなかったね。今何処!!?』


「新橋駅の地下に潜ったとこ。銀座線の案内板が見えてきた」


『ああ、多分山手線事故で地下鉄も止まっているかも知れないから、線路沿いを来て。こっちは渋谷から向かうから、途中で会おう』


やっぱり玲くんの声音は優しい。

耳触りのいい、心地よい低音。

心がほっこりする。


玲くん身体は大丈夫だろうか。


聞こうとしたあたしに以前の櫂の言葉が蘇る。


"玲は弱い男じゃない"


玲くんは大丈夫だ。

あたしが心配しなくても強い。


電話の声も元気そうだし、玲くんは大丈夫。


「玲くん。玲くんが居るから皆はきっと大丈夫だね。決して無理しないで、無事で居てね」


『……うん、無事で。こっちは大丈夫だから』


「本当の本当に、後で会おうね。絶対、無事で会おう」


『そうだね、会おうね、絶対』


何だか無性に寂しくなってしまって、あたしはしゅんとしてしまった。


最後の言葉……になったらどうしよう。


それを感じ取ったのか、玲くんも言葉を切った。

そして切なげな溜息を吐いた後、ゆっくりと言った。




『好きだよ――芹霞』





その声音は。

少し震えて、少し掠れて。


甘やかに。

艶やかに。


真っ直ぐあたしの心に突き刺さった。


――芹霞、好きだよ?



いつもの…好意の挨拶のような響きではなかった。


もっと切実で、もっと真剣な…。


どきん。


あたしは玲くん相手に、

心臓が高鳴ってしまった。



あの…

優しい玲くん相手に。


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