ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
電話を切った後、あたしは歩きづらいスカートを破り、髪の飾りを棄てた。
トイレの前に水のみ場があったから、蛇口を捻って水を出し、化粧をした顔をごしごし洗った。
気分は爽快だ。
「随分と、大胆だなー」
陽斗は面白そうにあたしを見ていた。
「女ってよー、そういうの拘るんじゃねえの?」
「あたしは、こういうの似合わないの判っている。あたしはあたしらしくいくことにした。この先重荷になる虚飾なんてすぐ切り捨てるべきだったのよ」
「……別に似合わないとは言ってねーんだけど。むしろ……ああ、独り言。けど、やっぱ潔いよなー、お前」
その時だ。
ガラガラガラ…。
天井が崩れてきたのは。
そして――。
「…ちッ!!」
こちらを見据える真紅の瞳。
「芹霞、見るな」
前方に立つ陽斗が、あたしの目を手で押さえて、鉤爪を装着した。
制裁者(アリス)――だ。
真っ暗な視界に風が走る。
ガキーン、と金属同士がぶつかりあう音。
激しい戦闘の最中にいるあたしの目からは、陽斗の手は離れない。
そして、
「……おいおい」
陽斗の溜息交じりの声。
ざわり、とするこの感覚。
人の気配。
否――人外の気配。
押し寄せるような邪悪な気配。