ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「芹霞ちゃんよー」
ガキーン。
「よく聞けや」
ガキーン。
「ここを真っ直ぐ行けば改札口だ。それ潜って一人でひたすら走れ」
「へ? 陽斗も……」
視界が外された。
飛び込んでくる金色。
「制裁者(アリス)と共に血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)も押し寄せている。俺は此処で足止めするからよ、お前先にあいつらの処に行ってくれ。赤坂へ行け」
「はあ!?」
「俺言ったろう、お前を護る。護るための一手段だ。大丈夫、そんな顔すんなよ。死ぬわけじゃねえ。後で必ず追いつくから」
照れたように笑う陽斗の顔に。
あたしは一度首に抱きついて、力強く頷いた。
「判った。あたしは陽斗の重荷になりたくないから、行くよ」
「……重荷なんかじゃねーよ。誰が好き好んで他の奴の所にいかせるかよ」
ガキーン。
その言葉は、制裁者(アリス)の手にした斧と鉤爪がぶつかる音でかき消されて。
背面で何が繰り広げられているのか、怖くてあたしは見れない。
「早く行け。……それと、橙色の飼い犬に気をつけていろ」
「煌のこと?」
「そうだ。あいつは脆(もろ)いから、あの女の格好の餌食になる可能性がある」
「は?」
「あいつは制裁者(アリス)だ。記憶消されても、あいつの邪眼は何かの拍子に蘇るかもしれねえ。あいつらの連携が崩れたら、紫堂櫂もどうなるか判らねえぞ?」
「……判った!!」
「それと……」
ガキーン。
「結界を可能な限り強めろって紫堂玲に言っておけ。多分……コスプレ女は役に立たねえ」
「役に……って、陽斗、血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)が……!!!」
「走れッッ!!!」