ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


微かに臭う鉄の臭い。

それでも、あたしが以前誕生日にプレゼントしたシトラスの香水は健在で。


安心して。

嬉しくて。


櫂の首に回した手に力を込めた。


そんなあたし達を見ている人が居るとは気づかず。

どんな気持ちでいるかなんて考えもせず。


ただがむしゃらに、大好きな櫂の温もりを堪能していた。


身体を離して見る我が自慢の幼馴染は。

端正な顔を優しく弛ませて。

蕩けるような甘い表情を浮かべたと思うと、

あたしを抱き上げた。


それは"お姫様だっこ"で。


陽斗の苦々しい記憶を思い出しながらも

何故だか安心しきるあたしがいた。


櫂はそんなあたしに、


「いばら姫じゃなくてお転婆なシンデレラだな」


あたしの傷だらけの足を見てそう笑ったから、


「お姫様がいばら踏んで、裸足でかけつけたんだよ、光栄でしょ?」


つんとすましてそう言ってみたら、


「俺を"王子様"だって認めてくれるわけ?」


甘やかな瞳でそう尋ねられた。

 
あたしは櫂のこういう顔に弱い。


無意識に放つ色香に、

どういう態度をしていいか判らなくなる。

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