ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


ホームには微笑む桜ちゃんが会釈してくれた。


玲くんは紫堂の力を使っているみたいだ。

青い光に包まれている。

人魂ではなかったから安心した。


あたしはホームに降り立って、玲くんに声の元に駆け寄った。


「玲くん、可能な限りの結界を強めろって陽斗が言ってた」


「……そう」


「由香ちゃんが役に立たなくなるって。意味は判らないけど」


「……そう」


玲くんの笑顔を想像していたけれど、何だか辛そうな顔で俯きながら、素っ気無く同じ台詞ばかり吐く玲くん。


「……玲くん?」


具合悪いんだろうか。


その両頬を手で添えて、

思わず覗き込んだ鳶色の瞳。


あたしと焦点が合うと、


「うわああああ!!!?」


玲くんは声を上げて、上体をのけぞらせてしまった。


凄い驚きようだ。


「ご、ごめん、びっくりしてしまって」


そう笑う玲くんは。


うん。発作は起きていないみたいだ。


「陽斗は?」


割り込むようにして、

櫂が訝しげな声音を発した。


「陽斗は――」


ぽろぽろと涙が出た。


あたしは陽斗があたしを庇って新橋駅で足止めをしていることを告げた。



「陽斗が"赤坂に行け"って」


「赤坂? 赤坂は此処だが?」


「え?」


慌てて見る駅名は"赤坂見附"だった。



「この邪悪な気……故意的か」


櫂が不敵に笑った。

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